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12月「忘れる、忘れない」(朗読劇・DOZEN 2ndより)

あれから5年。2011年12月公演の「朗読劇・DOZEN 2nd」12本のショートストーリーを読みつなぐこのシリーズ。この2ndは2011年の1月から12月を描いてる。”その時に”というよりも、時を経て読む為に描いた”日記”のようなもの。そこで、今年、一ヶ月アップして行こうかと・・・忘れなければね。

 

 

12月 忘れる、忘れない

 

魚がうまい。焼酎が豊富。落ち着いた雰囲気。東北のお酒を飲める。鍋料理。焼き鳥がうまい。蒸し料理がある。スイーツが豊富。掘りごたつ式の席…。
 
アホらしい…メモを丸めて、ごみ箱に投げた…が、外れて床に、それが三科さんの足元に転がった。
「忘年会の幹事になったんだ」
三科さんは、私にごみ…いやメモを戻した。
そう、私は忘年会の幹事になってしまった。で、店を押さえないといけない。10名程度の営業所。人数的には苦労はいらないが、みんな個々にリクエストを言ってくる。そのくせ「どこかいい店、知りませんか?」と聞くと「幹事が好きに決めればいいの」と言ってくる。ホント、めんどくさい。
「この“焼酎が豊富”って宮坂さんでしょ?あの人これしか言わないのよね。その割には同じ焼酎しか飲まないのよね」
三科さんの顔を見上げた。
「気にしなくていいのよ。みんな好き勝手言うけど、それはそれで優しさなのよ」
間の抜けた顔をしていた…多分。三科さんは、空いていた隣のデスクに腰を下ろした。
「幹事がお店選びに困るだろうから、その時の参考なればと言ってるだけよ。別に…“魚がうまい”ところじゃなくてもいいの。でも、あなたがある店にして、誰かが“どうしてここにしたんだ?”って聞く。その時“魚がおいしいって評判なんで”って答える。すると“あぁ考えて選んでくれたんだな”って…まぁ、そんな感じ」
「そんな感じ…?」
「そうよ、幹事なんて、そんな感じ」
「…」
「なに?」
「三科さん、今のって…」
「えっ!?」
仕事は出来る。美人でお洒落。でも、ちょっと天然的な所がある三科さん。自分でも気付かない内にオヤジギャグを口にしていりする。
「あぁ、またやっちゃった」
そして、そのたびに凹む。私は、そんな三科さんを、失礼ながらも可愛いと思う。
「今年は、これでいいんじゃない?」
そう指さしたのは「東北のお酒を飲める」だった。
立ち上がろうとした三科さんを、私は止めた。
「なんだか“忘年会”って、嫌な感じですね」
意図的ではなかった。ふと気が付いたら、口をついていた。
「飲んで、騒いで、そういう気分になれないって事?」
座りなおした三科さんは、私の顔を覗き込んできた。 
そういう意味ではない。なんというか、「忘年会」という名が気に食わなかった。「年を忘れる会」確かに、良いも悪いも忘れて、気分一新、新たな年へ…わかるけど、なんだか今年は、今年だけはそんな気分じゃない。だけどそれは、あの恐怖を、あの悲しみを、あの苦しみを、あの痛みを、涙を…忘れない…ではない。これまで無知でいたことを、その方が“楽”だと思っていたことを、それを愚かだと気付いた自分を忘れないでいたい。そうでないといけない。
「なるほどね」
私の話を聞き終え、三科さんは席を立った。コーヒーを入れてくれるという。
他には誰もいない営業所内。その空気が私にこんな話をさせたのだろうか?街はとっくにクリスマスムードというのに、私の心はずっとこんなだ。
「忘れないも大事だけど、忘れるも大事よ。忘れるは、神様がくれた素晴らしい能力なんだから」
私の前にカップが置かれた。香ばしい香りが漂う。
「そう言われても、忘れる気にはなれない…ね」
三科さんはつぶやくように言った。
 
忘年会当日。私が押さえたのは営業所から2駅離れた和創作料理の店。全席個室作りになっていて雰囲気も良く、なにより東北プランという特別コースが決め手になった。
「今年も、みんなお疲れ様。今日は、飲んで、食べて、楽しみましょう」
所長の言葉は平凡だけど、だからよかった。みんな笑顔でお酒を酌み交わし、料理をほお張り、話を弾ませる。私はといえば、それは幹事なのだから、オーダーを取りまとめたり、トイレの案内をしたり、半分店員みたいな…。
「いいのよ、そんなことしなくても」
メモしたドリンクのオーダーを店員に渡している時、三科さんが声をかけて来た。で、そのまま私を自分の席の隣まで連れて来た。
「はい」
そこには、これまでに私の前を右から左、左から右と消えて行った料理が少しづづ小皿に取り分けられていた。
「あとは会計だけ間違いなく済ませてもらえれば大丈夫だから」
そう言って三科さんは、まっさらの取り皿とお箸を私の前に置いた。
「これ…」
私が躊躇していると、店員が近付いてきて、ハイボールを2つ置いた。三科さんが頼んだものらしい。
「はい、乾杯!」
一方的にグラスを合わせた。その勢いに押されるように私もグラスを口に運んだ。一口、二口、一気に流し込んだ。
ハイボールが半分くらいになった時、三科さんが少し私に身を寄せて来た。
「考えることは大切。感じることは大事。自分を省みることも、ミスを忘れないことも、みんな大切な事。でも、それらを“しない”“やらない”ってことも大事な事。」
残りを飲みほし、お代わりを頼む三科さん。いつもとはちょっと…アルコールだけじゃない。何かが違う。そんな感じがした。
「腹くくって、覚悟決めて、“何もしない”“何も考えない”って瞬間も大事。私は思う。あなたの“忘れたくない”も大事だけど。だけども…」
言葉が、途切れた。アルコールのせいではないことは、その顔を見てわかった。目に溢れるものが見えた。うす暗い店内の照明が反射していた。
「三科さん?」
私の声に、三科さんは笑顔を作って見せた。そして、私のグラスを手にすると、残りを飲みほした。で、お代わりを店員に告げる。
「今日は2人で飲まない?付き合ってよ。忘れるでも、忘れないでも、どっちでもいいから、今日は飲もうよ」
その目に溢れたものは、一筋だけ流れて、落ちた。三科さんはそれを拭わなかった。それは、意図しての事だろう。
言葉では…口には出来ないけど伝えたいことが…ううん、知ってほしいことがある…そんな思いの表れのような気がした。
 
忘れたい、忘れたくない…そんなことを口にできる程度なら、まだ幸せなのかも知れない。そんなことを簡単には口にできない出来事が、三科さんにはあったのだろう。いや、今年はいたるところであったのだろう…ううん、毎年、今この瞬間も、世界のどこかで起きているのだろう。だから、今夜もお酒を飲む人がいっぱいいるのだろう。
 
忘れたい、忘れたくない…そんなことを口にできる程度なら、まだ幸せ。
会計を済ませた私は、三科さんと行き付けのバーに向かった。
 

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11月「夢見ます」(朗読劇・DOZEN 2ndより)

あれから5年。2011年12月公演の「朗読劇・DOZEN 2nd」12本のショートストーリーを読みつなぐこのシリーズ。この2ndは2011年の1月から12月を描いてる。”その時に”というよりも、時を経て読む為に描いた”日記”のようなもの。そこで、今年、一ヶ月アップして行こうかと・・・忘れなければね。

 

11月 夢見ます

 

「尾崎ハウス解体」そんな話を先月聞いて、久しぶりに彼を思い出した。で、今度は「遺書があった」という報道。週刊誌に掲載されているらしいが、「そうなんだ」って以上に心が動かなかった。どれくらい前の自分なら、本屋に…コンビニに急いだのだろう。
彼がこの世を去ってもう20年近く。時間って過ぎてしまえば、本当にあっという間だ。当時十代だった僕は、いつの間にか彼の年齢を大きく超え、彼の歌を口ずさむことなく、生きている。
1992年4月25日朝、東京都足立区内の住宅街で全裸の彼が発見された。同日午後0時6分に死亡。死因は極度の飲酒による肺水腫。でも無数の外傷、体内から覚せい剤が検出…他殺説が流れた。毒ガステロを起こしたあの新興宗教団体による犯行という噂もあった。しまいには「俺が殺した」という人物も現れた。遺族は再捜査を求めた。裁判も起きた。
遺書があったなら他殺説、そのすべてが嘘ってことになる。これで彼もやっと静かに眠ることができるだろうか?それとも、そんなこの世の動きなど気にもかけず20年前からぐっすり眠っているのだろうか?
 
『きっと人は、やがて暗い闇の中で、ひとり自由な夢かなえて眠るのだろう』
 彼は最愛なる母親の死を乗り越える為に、そう歌った。僕は、それに甘えるように「あの日」を思い出にしようとした。
 
1992年11月25日朝、その日僕は退屈な時間を過ごすために、窮屈なバスに乗って、学校にいた。いつものよう…それは、昇降口で上履きに履き替える、その瞬間までだった。
「安藤、ちょっと」 僕を待っていたのか?担任が小さく低い声で言って来た。
「おはようございます」
そのことに違和感を感じながらも、眠たい声で応えた。
「ちょっと、こっちへ」
朝から担任に呼びとめられる。最悪な一日を覚悟した。廊下を歩く間「何をやらかした?」と自問自答したが、何も思い当たることはなく、事実、全く予想外の事を職員室の片隅で告げられた。
「古屋が亡くなった」
何を言っているんだ、この人は?と、そう思った。
「自殺らしい」
何を言っているんだ、この人は?と、そう思った。
「安藤、聞いているか?」
何を言っているんだ、この人は?と、そう思った。そして、僕は何も言わず、聞かず、担任に背を向け、教室に向かった。
「安藤」
担任の呼ぶ声は聞こえた。でも、そこで立ち止まったら、さっき耳にしたことを受け入れてしまうことになる。僕は、いつものように教室に向かった。
でも、現実とは、事実とは、結局何処までも追いかけてくるもので、逃げることはできない。教室の僕の机、その中に封筒が入っていた。季節外れの桜のイラストが描かれたのんきな封筒。その中の便せんにはこう書かれていた。
『ごめんね。ひとりにして。でも私は幸せだよ。自由な夢の中へ行きます。 ひとみ』
これを遺書と呼ぶには、あまりにもあっけない。でも、現実とは、真実とはそんなものかも知れない。
いつものように朝の挨拶を交わすクラスメイト達。そののんきな声たちが、僕をイライラさせた。メソメソさせた。孤独にさせた。僕は静かに教室を抜け出した。
 
古屋ひとみ―幼馴染、彼女…その関係を表現する言葉なんてどうでもいい。初めて身近な…言葉ではなく、心でそう思える人間を失った。もちろん自分を責めた。「なぜ、止められなかったのか?なぜ?」と…。「自分を責めるな」と思える人間を失った。もちろん自分を責めた。「なぜ、止められなかったのか?なぜ?」と…。「自分を責めるな」と異口同音に聞かされた。その度に「自分には責められる何かがあったのだ」と思った。遺書は机にあったもの以外にもあったらしいが、見せてはもらえなかった。そのことが「やはり」と思わせた。
誰も答えてはくれない。答えられる者などいない。「なぜ?」心の中で渦を巻くその言葉。答えの代りが「自由な夢かなえて眠るのだろう」だった。人はいつの日か必ず死ぬ。その最後にたどりつく所が「悲しみ」なんて、そんなことあるはずない…そう必死になって思い込んで来た。そして、いつしか「なぜ?」の答えを探す事を止めた。
 
20年。僕は嫌がっていた大人になった。全然、ちゃんとしてなどいないし、相変わらず不安定だし、気紛れだし、馬鹿だし、身勝手だし、それでも大人になった。二人より、随分大人になった。
 
『僕は、夢見ます』彼の遺書にはこう記されていたという。彼らしい。でも、それ以上、心は動かない。
 
「悪いな、尾崎。ごめんな、ひとみ。夢見るならやっぱり生きて、この世で。そう思うんだ」

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10月 「林檎を齧ったら」(朗読劇・DOZEN 2ndより)

あれから5年。2011年12月公演の「朗読劇・DOZEN 2nd」12本のショートストーリーを読みつなぐこのシリーズ。この2ndは2011年の1月から12月を描いてる。”その時に”というよりも、時を経て読む為に描いた”日記”のようなもの。そこで、今年、一ヶ月アップして行こうかと・・・忘れなければね。

 

10月 林檎を齧ったら

 

「あら、どうしたの?溜息なんて」
そう言われて、自分が溜息をついたことに気が付いた。
「恋いかしら?恋いかしら?秋だと言うのに、春が来たのかしら?」
鏡越しに、私の顔を覗き込みながら、テルさんがニコニコしている。その手の話には、すぐにテンションを上げる。
でも残念、そんな話は何もない。
「で、今日はどんな感じにする?」
髪をどうしようか…具体的には決めてはいなかった。とりあえず「そろそろ行きたいな」と美容院に予約を入れて「その時に考えよう」と思っていたのだ…が、大きな鏡を前にしても、何も浮かんでこない。そんな私を、テルさんがニコニコと、覗き込んできた。もちろん、鏡越しに。
「それじゃぁ、私にまかせてよ。前から知佳ちゃんにやってみたかった髪型があるんだよね」
一体どんな髪型にしたいと言うのだ。
「それは、ヒミツ」
ニコニコしたテルさんが、私を見ている。もちろん、鏡越しに。
この美容院に通い始めて5年以上。ずっとテルさんにカットしてもらってきた。私の好み、髪質、気紛れさ、よく理解してもらっているはず。でも、完全に委ねて大丈夫だろうか?私は、黙り込んだ。
すると、テルさんがそれまでのおどけた雰囲気を抑えて、他のスタッフや客に聞こえないボリュームで言ってきた。
「最近はさぁ、重苦しい事が多いじゃない。景気も悪いままだし。こういう商売って、ダイレクトに影響が出るのよね。カラーやパーマは止めてカットだけ、とか。月イチから2ヶ月に一度に…とか」
あれ?もしかしたら「だから、楽しいことしたいじゃない」って乗りで、私の髪を切りたいということか?
「知佳ちゃんの事は、わかってる。付き合い、短くないじゃない。任せてよ」
ニコニコしたテルさんが、私を見ている。もちろん、鏡越しに。
「で、溜息の理由は何かしら?」
結局、テルさんの申し入れを飲んだ私。シャンプーを終えて戻ってくるなり、テルさんが聞いてきた。でもその顔は、仕事モード。私の髪に軽く触れながらイメージを膨らませているのだろう。一体、どんな髪型にするつもりなのか…全然乗り気じゃなかったけれど、こういうのも悪くない…そんな気持ちが少し湧いてきた。
「で、理由は?」
イメージが固まったテルさんは、私の髪をピンで留め始めた。
このままだと、作業を一つ終える度、ハサミを入れる度に聞かれそうなので、私は答えることに。私は溜息の理由…その正体を取りだした。
「アイフォーンじゃない!」
そう最近手に入れたのだ。
「もしかして、それって4Sじゃない?」
テルさんは、この手の物が大好物だ。でも、私は興味が薄い。携帯が壊れて、何となく手にしてしまったアイフォーンだ。
「で、なんでそれが溜息の理由なわけ?もしかして、使い方分からないとか?知佳ちゃん、弱いものね、この手のもの。」
肩より少し伸びた髪が5センチ近くカットされた。
確かに私は機械に弱く、最初はよくわからなかった。けれど、最近は使えるようになった。なった。だから、溜息なのだ。
「どういうこと?」
髪が迷いなく、ためらいなく切られていく。

自分はスマートフォンなんて持たない、って思っていた。携帯は電話が出来て、メールが出来て…そんなのでいいと。実際、壊れるまで使うのが私の流儀。この前の携帯は4年使っていた。なのに、店員に勧められ、話を聞いて…あれ?意外と高くないじゃん!って思って手にしてしまったアイフォーン。こいつは、本当に厄介な代物だ。
今まで避けていた反動だろうか?事前情報が何も入っていないからだろうか?知れば知るほど、使えば使うほど、楽しくて仕方ない。写真、ネット、ゲーム…とにかく四六時中いじっている。なんだが、タッチパネルを触っていないと落ち着かない。

「楽しいなら、いいじゃない?溜息つかなくても」
確かに、テルさんの言う通りなのだけれど、なぜか溜息が出る。スマートフォンの「スマート」は「賢い」という意味。この賢い電話に振り回されている感じの私って…何?おおざっぱだけど、そんな感じがあるわけで…。
「なんだか、メンドクサイ思考ね。楽しければいいじゃない?」

確かに、テルさんの言う通りなのだけれど、なぜか溜息が出る。私は「iCloud」というものを知ってしまった。詳しい仕組みはよくわからないが、アイフォーンとパソコンが同期し、同じデータを共有できるのだ。音楽も、写真も、ファイルも…これは使える!っと思った。使いたいと思った。でも、私の持っているパソコンでは使用できなかった。でも使いたい。使いたい。使いたい。…買ってしまった。マック・エア。

「いいじゃない、自分がやりたいことあって買ったんだから。何やりたいか?やれるか分からないのに、ただ流行りで買いそろえるより、全然賢い。スマートよ」
頭のピンが外された。随分、軽くなった感じ。
「まぁ、それでも溜息出るのは仕方ないのよ」
テルさんが手を止めてニコニコ覗き込んできた。もちろん、鏡越しに。
「『リンゴを齧ったらこんな苦しい気持ちになるの?』だからね」
「はい?」
「そのケース外して、後ろ見てみなさいよ」
言われるままに、私はアイフォーンをケースから外し、背面を見た。そこにはアップル社のマーク。そう、齧られたリンゴ。
「私、うまい事言った!ねっ、ねっ」
言いたいことはなんとかく分かるけど…。
「その『リンゴを齧ったらこんな苦しい気持ちになるの?』って?」
「聖子ちゃんよ。松田聖子の『天使のウィンク』よ」
テルさんは、歌った。でも、知らないものは知らない。ごめん、テルさん。
「ねぇ、テルさん」
話題を変えようとした私は、ふと思い浮かんだことを聞いてみようと思った。
「テルさんの希望を聞いたから、私のも聞いて。あのさぁ、その『おねぇキャラ』って、仕事上?それとも、地?男と女、どっちが好きなの?」
テルさんは、その質問に真顔になった。そして、私の真後ろに立ち、そっと肩に手を置いた。
「みんなが聞きたくても、聞けなくて、喉もとで行ったり来たりさせている質問を、知佳ちゃん、とうとう口にしたわね」
テルさんは、ニコニコを戻して、私を覗き込んだ。鏡越しでなく、直に。
「その勇気に敬意を表して教えてあげる」
テルさんは、耳元で答えを教えてくれた。
「誰にもしゃべっちゃだめよ」
ニコニコしたテルさんが、私を見ている。もちろん、鏡越しに。
私は大きく頷いた。けれど…、
「何してるの?」
そう言われて気が付いた。私はアイフォーンのロックを外し、ツイッターのアプリを起動させていた。

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9月 「スケジュール帳」(朗読劇・DOZEN 2ndより)

あれから5年。2011年12月公演の「朗読劇・DOZEN 2nd」12本のショートストーリーを読みつなぐこのシリーズ。この2ndは2011年の1月から12月を描いてる。”その時に”というよりも、時を経て読む為に描いた”日記”のようなもの。そこで、今年、一ヶ月アップして行こうかと・・・忘れなければね。

 

 

9月 スケジュール帳


A  月曜日。定例会議
B  班長会
A  火曜日。ビジネスセミナー参加準備会
B  安全管理者研修 事前打合わせ
A  水曜日。ノー残業デー、という名のサービス残業デー
B  小学生の社会科見学 事前打合わせ
A  木曜日。プレゼンテーション資料提出日
B  休み
A  金曜日。社内プレゼン
B  休み
A  土曜日。休み
B  仕事
A  日曜日。休み
B  仕事
A  月曜日。定例会議
B  班長会 司会当番
A  火曜日。ビジネスセミナー参加準備会
B  安全管理者研修会 昼食の手配は10時までに
A  水曜日。ノー残業デー 今週は譲らない
B  小学生の社会科研修 記念品は23個、第3会議室に用意
A  木曜日。F社、プレゼンテーション。
B  休み。マッサージ予約、11時
A  金曜日。仕事。夜のデートはキャンセル。
B  休み。歯医者予約、13時。夜のデートはキャンセル。
A  土曜日。休み。コンサート、17時名古屋。
B  仕事。コンサート、キャンセル。楽しんできて。
A  日曜日。休み。することない。寝る。とことん寝る。
B  仕事。明日も仕事、とことん寝る。

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8月 「マジ、好きなんです」(朗読劇・DOZEN 2ndより)

あれから5年。2011年12月公演の「朗読劇・DOZEN 2nd」12本のショートストーリーを読みつなぐこのシリーズ。この2ndは2011年の1月から12月を描いてる。”その時に”というよりも、時を経て読む為に描いた”日記”のようなもの。そこで、今年、一ヶ月アップして行こうかと・・・忘れなければね。

 

 

8月 「マジ、好きなんです」


ここ最近は意図的にニュース番組を見ることを避けてきた。理由は「疲れる」からだ。思考が、心が疲れる。デジタル化された映像は、美しいものをより美しく、残酷なものをより残酷に映し出す。“まるでそこにいるような臨場感”なんて、テレビになんて求めていなかった。
なぜ、避けていたニュースにチャンネルを合わせたのか分からないけど、珍しく帰宅するなりテレビをつけて、それを見ていた。
 
「ただ、もう何言っていいかわからないけど、ただ、オレ、マジでサッカー好きなんですよ。マジで、もっとサッカーやりたいっす。本当、サッカーって最高だし、まだサッカーって知らない人もいると思うけど、俺みたいな存在っていうのもアピールしたいし。本当、サッカーって最高なところを見せたいので、これからも続けさせてください。本当にありがとうございました」
なぜか、ソファーに座ることも忘れ、立って見続けていた。
 
名前は知らなかった。16年間所属したチームを離れた時のあいさつらしい。それが去年の事。今年、彼はアマチュアリーグでプレーすることを選び、現役を続けていたという。
その彼が亡なったらしい。享年34歳。サッカーの選手寿命なんて知らないけど、人間の寿命からして34歳は早すぎる。それも練習中に倒れてとなれば、ニュースにもなるだろう。でも、それがトップニュースに値するかどうかなんてことはわからない。実際、そう扱われているのだから、そういうことなのだろう。そういう選手なのだろう。
 
基本、スポーツ選手や芸術家と呼ばれる人種はリスペクトやシンパシーの対象ではない。理由は、生産性のない事を生業としているからだ。一時、IT系企業やファンド事業を「虚業」と言ったりしたが、球を蹴ったり、打ったり、絵具をぬり重ねたり、文字を連ねたり…それでお金が儲かる…それらと何が違うのだろう?と思う。
 
オレ、マジでサッカー好きなんですよ。マジで、もっとサッカーやりたいっす―言葉だけを取ってみれば、なんとも幼稚な発言だ。でもそれを彼は涙を流し、語る。それを聞く者も涙を流している。それも年齢をかさねた大人たちが、だ。
 
繰り返しになるが、基本、スポーツ選手や芸術家と呼ばれる人種はリスペクトやシンパシーの対象ではない。そのことはきっとこれからも変わらない。変わらないけど、買ってきたホカ弁の存在も忘れて、見続けていた。
生きる為に必要な物。衣食住。でもきっと、それだけでは、本当は生きることが出来ないのだろう。太古の時代ならいざ知らず、今というこの時に、それだけでは生きられない。だから、球を蹴りあうスポーツに魅せられる人たちがいる。具体的には何を描いているのかわからない絵に心を奪われる人たちがいる。
 
オレ、マジでサッカー好きなんですよ。マジで、もっとサッカーやりたいっす―これっも、繰り返しになるが、なんとも幼い表現である。でも、だからこそ、とても心に響いてくるのだろう。
 
サッカーが好きでも、彼が好きでもないのに、その日、ニュース番組をいうニュース番組を見続けた。その合間にはネットで彼について調べた。
 
わがまま。生意気。もっともファンに愛された永遠のサッカー小僧―松田直樹。
 
オレ、マジでサッカー好きなんですよ。マジで、もっとサッカーやりたいっす―確かに、永遠のサッカー小僧だ。30過ぎとは思えない純真な言葉と涙、そして笑顔。
 
辛いことも、苦しいことも、嫌なことだってあったはずだ。人生だもの。あったはずだ。でも、彼は言い切るのだ。「マジ、好きなんです」と…。
 
不謹慎にも、つぶやいた。
「松田さん、羨ましいよ」
 

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