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3月 バースディ(朗読劇・DOZEN 2ndより)

12本のショートストーリーを読みつなぐ「朗読劇・DOZEN」シリーズ。2011年12月公演の2ndは2011年の1月から12月を描いてる。”その時に”というよりも、時を経て読む為に描いた”日記”のようなもの。2016年には毎月一編づつ投稿してきましたが。改めて「3月」と「4月」を。(そのほかの月はこちらで)


3月 バースディ

3074グラム。その体重が優しく両腕に伝わり、感じたことのない高揚感が僕を包み込む。午前6時31分。夜明けと共にやってきたのは、まさに天使。生まれたばかりの彼女は赤くて、しわしわで…かわいい。きっと彼女よりの美人はこの世にはいないだろう。
幸せに包まれていると、次に訪れてきたのは睡魔。「今日はない」そう思って寝ていたところへ連絡が入った。それが3時少し前。体は正直ものだ。妻が横になっているベッドの隅に頭を預けて眠ってしまっていた。幸せな時間。幸せな眠り。

2011年3月11日。この日、この瞬間を僕は一生忘れない。

最初に反応したのは聴覚。地鳴りのような、呻き声の様な低い音を捉え、目が覚めた次の瞬間に、病室が、ベッドが、娘が、妻が、僕が、揺れた。
「地震?大きくない?」
妻のその言葉に、彼女の手を握った。確かに大きい揺れ…でも、大きさよりも長さが怖さを増幅させる。
反射的に付けた病室のテレビには、まだCMが流れていて、僕はリモコンの「1」を押した。受信料に文句を言っても、結局こういう時に頼るのはココだ。
緊急地震速報の画面。震源地を示す赤い×印が東北の海上に。「良かった、遠い」と、安堵した自分がいたが、そんな思いはすぐさま消え去った。

流れてくる映像を見て、妻がポツリと言った。
「映画みたい…」
嘘であってほしい。夢であってほしい。そんな思いがそう口にさせたのだろう。
しばらく一緒にテレビを見ていたが、あまりにも鮮明に映し出される未曾有の光景に息苦しさを覚え、病室を出た。
廊下の一角にある待合室には多く人が集まってテレビにくぎ付けだ。大半は付添いや見舞の人だが、最高列から画面を覗き込む看護士や清掃員の姿も。
「あっ、人!」
大きな声が上がった。その後、それに反応した人々が次々に声を上げた。
「車に、あの流された車に人が…」
「何処?」
「あそこ、あそこの黒い…」
「あぁ…」

病室に戻ると、妻はまだテレビを見ていた。
「休まなくて大丈夫?」
妻は、それに無言で頷いた。
丸椅子に腰を降ろし、一階で買ってきたドリップコーヒーを啜る。深く香ばしい香りが鼻を抜け、これは現実なんだという事を伝えてくる。

地震大国ニッポン。大きな地震は必ず来るものだと幼い時から教えられて育った。小中高と1年に何度も避難訓練があった。「いつ来てもおかしくない」そう言われて育ってきた。そういう土地に住んでいるのだと、そう認識して生活してきた…はず。だけど、いざ起こると…遠くの街で起こっただけなのに、現実だなんて思いたくない。ましてや、今日という日に起こったなんて、信じたくない。認めたくない。たった8時間前に誰からも祝福され幸せの絶頂に僕はいた。それなのに…。
「今日だなんて…」
そうポツリとこぼした声に、妻は反応した。
「この子が生まれた日に、こんな悲しい出来事があって辛い?」
「そりゃ…」
「そう?」
「お前は、辛くないのか?」
彼女は相変わらず天使の寝顔の娘を見ながら言った。
「確かに、世界中が幸せであってくれたら、その方がうれしいよ。でも、そうでなくたっていいと思うんだ。この子が私たちの元にやってきてくれた今日は、私たちにとっては最高に幸せな日。それは変わらない。何が起きたって、この子を産み終えた時の…最初の声を聞いたあの瞬間の喜びは消えないのよ。奪われないのよ。それこそが現実なんだよ」
そこで、妻は僕を見た。そして、続けた。
「だから、この子の誕生を私たちは精一杯、命一杯、祝ってあげましょうよ。それが出来るのは私達だけなんだから、ね」
僕はテレビから受けるものとは全く異なる…内側から溢れて来たような衝撃をその身に感じた。
彼女の誕生は喜ぶべきこと。それは何があっても、誰が何を言おうと揺らぐことはないのだ。そうなのだ。例え、それが身勝手な利己主義に見えたとしてもだ。

君の母さんは、強いね。
僕は心の中で、娘に話しかけた。

君が誕生日を迎える度に「あれから1年」「あれから10年」「あれから20年」「あれから…」とニュースは伝えてくる事だろう。そして、今父さんと母さんが見ている映像を流す事だろう。君は母さんに似て優しい心を持っているから、誕生日を祝ってもらう気分になれないかも知れない。今日という日に生まれたことに何か運命的なものを感じるかもしれない。
だけど、3月11日は年に1度の君の誕生日だ。喜んでほしい。昨日生まれた子供と同じように、一か月前生まれた子供と同じように、去年生まれた子供と同じように、誕生日を命一杯楽しんでほしい。もちろん、プレゼントを父さんにねだってほしい。だから父さんも今日という日を君の誕生日として胸に刻む。生まれて来てくれてありがとう。

その小さな小さな頬に人差し指を当てた。柔らかく優しい頬。そこにしずくが落ちた。なぜだろう。止まらない。哀しいのか、嬉しいのか、それさえもわからない。でも、止まらない。

2011年3月11日。この日、この瞬間を僕は一生忘れることはできない。

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